引っ越し後の住民税はどこに納める?必要な手続きなどの基礎知識を解説

引っ越しにより、新しい住所がこれまでとは違う市区町村になる場合、住民税はどこに納めるのでしょうか。気になる方も多いかもしれません。
本記事では、引っ越し後の住民税の納め先や、必要な手続きなどについて詳しく解説します。住民税は、私たちの暮らしを支えるための重要な財源です。支払い漏れなどで慌てないよう、正しい知識を身につけておきましょう。
そもそも住民税とは?
住民税とは、「都道府県民税」と「市区町村民税」を合わせた総称で、名前のとおり住民に対して課される税金のことです。私たちは、公共施設や上下水道、学校教育、ごみ処理、福祉など多くの行政サービスを受けて生活をしています。住民税は、このような行政サービスの活動資金に利用することを目的とした税金です。
住民税には、前年の所得金額に応じて課税される「所得割」と、所得に関係なく定額で課税される「均等割」とがあります。所得割の税率は10パーセントで、内訳は都道府県民税4パーセント、市区町村民税6パーセントです。均等割は、都道府県民税1,000円と市区町村民税3,000円の合計4,000円とされています。
会社員の場合、会社が給料から住民税を天引きしているため、自分で納税する必要がありません。そのため、「住民税を納付した覚えがない」と思われる方も少なくないでしょう。天引きされている税額については、給与明細に記載されているため確認してみてください。
住民税額はどのようにして決まる?
住民税は、その年の1月1日の時点で市区町村(都道府県)に住所がある人に対して課税されるものです。所得に関係なく一律で課税される「均等割」と、前年の1月1日から12月31日までの所得をもとに課税される「所得割」の合計金額を、その年の1月1日に住所を置いていた市区町村に納めます。
住民税の算出にあたっては「所得控除」や「税額控除」が考慮されます。所得控除とは、扶養控除や医療費控除などが該当し、個人的な事情を考慮し、所得額から一定の金額を差し引く制度です。税額控除とは、税額を算出したあとに一定金額を差し引くもので、配当控除やふるさと納税などがこれにあたります。
住民税の具体的な算出方法を見ていきましょう。
- まず、課税対象となる所得金額を算出します。
「所得金額」−「所得控除額」=「課税所得金額」 - 次に、所得割額を求めます。
「課税所得金額」×「税率(10パーセント※)」−「税額控除額」=「所得割額」
※分離課税の所得については、それぞれの税率となります。 - 所得割額に均等割額(4,000円)を足したものが、個人住民税の税額です。
「所得割額」+「均等割額」=「税額」
自分で税額を計算することはありませんが、上記のような計算式により算出されていると理解しておきましょう。
引っ越し後の住民税の納付先
年の途中で引っ越し、住む市区町村が変わった場合、住民税の納付先は旧住所の自治体となります。住民税は、1月1日時点で居住している(住民登録がある)自治体から、前年の1月1日から12月31日までの所得に対して課税されるものだからです。
たとえば、2024年の1月1日時点ではA市に住んでおり、1月2日以降にB市に引っ越した場合、2024年に納付する住民税(2023年所得分)の納付先は、A市となります。B市に納付するのは、その翌年以降からです。このように、年の途中に引っ越した場合、住民税は旧住所の自治体に納付します。
ただし、1月1日に引っ越した(住民登録を移した)場合は、その年に納付する分から新しい住所の自治体に納めることになります。「1月1日の居住地がどこであるか」が重要なポイントです。住民税はルールが少し複雑ですが、ぜひ理解しておきましょう。
住民税の手続きは不要
引っ越しにより居住する市区町村が変わっても、住民税の手続きを別途行う必要はありません。引っ越しの際は、自治体に「転出届」や「転入届」を提出し、住民票の移動手続きを行います。この手続きをすることで、住民税に関しても自動的に新住所に切り替わります。
転出届とは、異なる市区町村へ引っ越しする際に、旧住所のある役所へ提出する書類で、提出期間は引っ越しの前後14日です。一方、転入届とは、新住所のある役所へ提出する書類です。こちらも提出できる期間は決まっており、引っ越しをしてから14日以内となります。
転出届や転入届の提出は義務です。違反した場合、5万円以下の過料が発生する可能性があるため、忘れないよう注意しましょう。
住民税の納付方法
住民税の納付方法には、会社が従業員の給与から天引きし、代わりに自治体に納付する「特別徴収」と、納税義務者が自分で納付する「普通徴収」があります。それぞれの納付方法について、引っ越し後の注意点なども含めて詳しく解説します。
特別徴収(会社員)
特別徴収とは、会社が毎月従業員の給与から住民税を天引きし、本人に代わって納付するものです。従業員は、1年分の住民税を12分割した金額を毎月の給与から引かれているため、自分で納付する必要はありません。
会社員など給与支払いを受けている方は、特別徴収による納付が基本です。引っ越し後も納付方法に変更はありません。ただし、引っ越した場合には社内の担当部署で手続きが必要になるため、速やかに行いましょう。
また、会社員が退職した場合、特別徴収から普通徴収に切り替わることがあります。役所から住民税の通知が届いた場合は、納付を忘れないよう気をつけましょう。
普通徴収(個人事業主・フリーランスなど)
普通徴収とは、納税義務者が自分で住民税を納める方法です。役所から納付書が送付され、年4回分(6月、8月、10月、翌年1月)を納付します。
会社員の場合は特別徴収で会社が代わりに納めてくれますが、給与所得者以外の人(個人事業主など)は、自分で確定申告を行い、住民税を納めなければなりません。
普通徴収の納付方法は、以下のようなものがあります。
- 窓口納付(市役所・金融機関・コンビニエンスストア)
- スマートフォン決済
- クレジットカード
- ペイジー
- 口座振替
ただし、自治体によって取り扱っている納付方法は異なるため、事前に確認してください。
また、納付書は納期限ごとに4枚に分かれていますが、まとめて1年分納付することもできます。納付忘れが心配な方は、早めにまとめて納付しておきましょう。口座振替の場合は、第1期の納期限日に一括で引き落とすことも可能です。ただし、一括での引き落としに対応していない自治体もあるため、確認が必要です。
引っ越し時の住民税に関してよくある質問
引っ越し時の住民税に関して、二重納付や納付先についてなど、気になる方も多いのではないでしょうか。よくある質問とその答えを紹介します。
旧住所と新住所で二重に請求される場合はある?
引っ越しをしても、旧住所と新住所の自治体から二重に住民税を請求されることはありません。
住民税の納付先は、転出届と転入届を市区町村の役所に提出し、住所変更の手続きをすると、旧住所から新住所へ自動で切り替わります。転出届や転入届の提出を忘れた場合は、旧住所の市区町村に住民税を納付し続けることになります。そのため、この場合も二重に請求されることはありません。
なお、住民税は1月1日時点で居住していた市区町村に納付します。1月2日以降に引っ越した場合、新しい居住地に納付先が切り替わるのは、引っ越した年の翌年6月からになります。
住民税と市民税は違うもの?
「住民税」と「市民税」は、同じ意味として使われる場合が多いですが、厳密には違うものです。
市民税とは、住民税の中に含まれるもので、お住まいの市に納める税金です。一方、住民税とは、市民税(市区町村民税)に都道府県民税を合わせたものをいいます。
また、似ている言葉で「市税」もありますが、これは市に対して納める税金の総称です。市税には、個人住民税、法人市民税、軽自動車税(種別割)、市たばこ税、固定資産税、都市計画税などが含まれます。
似たような言葉ですが、それぞれの違いを理解しておくとよいでしょう。
年末年始に引っ越しする場合の納付先は?
住民税は、1月1日時点で住所のある自治体に納付をします。1月1日をはさむ年末年始の引っ越しの場合、タイミング次第で納付先が変わる可能性があるため、確認するようにしてください。
基本的に住民税の所得割の税率や均等割額は、全国で統一されており、新旧どちらの住所の自治体に納付する場合でも、大きな違いはないことが多いです。しかし、超過課税という制度があり、自治体によっては環境保全などを目的とした税が上乗せされる場合があります。これに該当する場合、旧住所と新住所の自治体で住民税額が異なる可能性が出てきます。気になる方は、事前に調べておくとよいでしょう。
住民税の支払いが遅れるとどうなる?
住民税を納期限までに納付しなかった場合、役所から督促状が送付されます。もし督促状が届いたら、速やかに納付しましょう。督促状が届いても納付せず無視し続けると、最終的には滞納処分が行われる可能性があります。
滞納処分とは、滞納している人の財産を差し押さえ、未納の税金に充てることです。対象となる財産は、給与、預金、生命保険、不動産などです。差し押さえられた財産はたとえ自分のものであっても、自由に使用や管理ができなくなります。銀行預金も自由に引き出しができません。
また、納期限を過ぎると、納期限の翌日から納付日までの日数に応じ、法律で定められた割合で算出した「延滞金」が加算されます。延滞金がかかる場合は、もとの税額に加えて延滞金も合わせて納付する必要があります。
万が一、期限内の納付を忘れてしまった場合は、速やかに納付しましょう。また、役所からの通知には、督促状など重大な内容も含まれます。必ず開封して目を通すようにしてください。
まとめ
引っ越し後の住民税の納付先は、1月1日時点での住所で決まります。引っ越しに伴い、住民税の手続きを直接行う必要はありませんが、転出や転入の手続きは必須です。引っ越しの忙しさで忘れてしまわないよう、十分注意してください。
会社員の方は、会社がまとめて自治体に納付してくれるため、会社への住所変更の手続きや報告を必ず行いましょう。一方、個人事業主など普通徴収の方は、自分で納付する必要があります。納付を忘れてしまうと、延滞金が発生したり、財産を差し押さえられたりする可能性があります。
住民税は私たちの生活につながる大切な税金です。正しい納税のためにも必要な手続きや納付を忘れないようにしましょう。
執筆年月日:2024年12月
※内容は2024年12月時点の情報です。法律や制度は改正する場合があります。