遺族年金とは?受給要件や対象者・計算方法について解説
国民年金や厚生年金の被保険者が亡くなると、残された家族には遺族年金が支給されることがあります。年金の種類により受給できる条件や期間などが異なりますが、遺族の経済的負担を軽減する制度です。この記事では、それぞれの遺族年金について詳しく解説します。
遺族年金とは
遺族年金とは、国民年金あるいは厚生年金の被保険者が亡くなった際にその家族を経済的に支援する制度です。国民年金から支給される「遺族基礎年金」と、厚生年金から支給される「遺族厚生年金」の2種類があります。
生計維持関係とは
生計維持関係とは、遺族年金の受給資格を決定する重要な概念です。これは、亡くなった被保険者と経済的に密接な関係にあった人を特定するための基準です。
具体的には、次の条件を満たす必要があります。
- 亡くなった被保険者と生活を共にしていたこと
- 個人の収入が一定額を下回っていること
一般的には同居する家族が該当しますが、別居していても経済的支援や頻繁な交流がある場合は認められることがあります。
遺族年金は非課税
遺族年金は非課税の給付金であり、所得税や相続税の対象外です。また、地方税や社会保険料の算定にも含まれません。そのため、受給者は確定申告や年末調整が不要で、国民健康保険料や住民税の負担増加もありません。
この優遇措置により、遺族年金は受給者の生活を支援する重要な役割を果たしています。
遺族基礎年金とは
遺族基礎年金とは、自営業者など国民年金の被保険者が亡くなった際に、その方によって生計を維持されていた家族に支給される遺族年金です。ただし、この年金を受け取るには、いくつかの条件があります。以下で詳しく見ていきましょう。
遺族基礎年金の受給要件
遺族基礎年金の受給要件は、以下の4つのケースのうち、いずれかに当てはまる必要があります。
- 国民年金の被保険者である間に死亡したとき
- 国民年金の被保険者であった60歳以上65歳未満の方で、日本国内に住所を有していた方が死亡したとき
- 老齢基礎年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢基礎年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
引用:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族基礎年金の対象者
遺族基礎年金の対象者は、亡くなった被保険者により生計を維持されていた「子のある配偶者」もしくは「子」です。ここでいう「子」は、次の条件を満たす必要があります。
子とは18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方をさします。
子のある配偶者が遺族基礎年金を受け取っている間や、子に生計を同じくする父または母がいる間は、子には遺族基礎年金は支給されません。
引用:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族基礎年金の計算式と受給額
遺族基礎年金の計算式と受給額は次の通りです。
・子のある配偶者が受け取るとき
昭和31年4月2日以後生まれの方 816,000円+子の加算額
昭和31年4月1日以前生まれの方 813,700円+子の加算額・子が受け取るとき
次の金額を子の数で割った額が、1人あたりの額となります。
816,000円+2人目以降の子の加算額
1人目および2人目以降の子の加算額 各234,800円
3人目以降の子の加算額 各78,300円
引用:遺族基礎年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
上記は2024年度の受給額であり、受給額は毎年改定されます。
遺族基礎年金の受給期間
遺族基礎年金の受給期間は、原則として亡くなった被保険者に生計を維持されていた子が18歳に達する年度末までです。ただし、子が障害年金の1級または2級に該当する場合は、その子が20歳になるまで遺族基礎年金の受給を継続することができます。
なお、結婚や養子縁組などにより受給資格を失う場合があるため注意が必要です。
寡婦年金とは
寡婦年金とは、国民年金の第1号被保険者であった夫を亡くした60歳から65歳までの妻に給付される年金です。受給資格を得るには、次の条件を満たす必要があります。
- 死亡前日までに夫の保険料を10年以上納付していたこと
- 夫が老齢基礎年金や障害基礎年金を受給せずに亡くなったこと
- 夫婦関係が10年以上継続していたこと
- 夫の収入で生計が維持されていたこと
支給される金額は、夫の第1号被保険者期間をもとに算出された、老齢基礎年金の4分の3となります。ただし、妻が繰り上げ老齢年金を受給中の場合は対象外です。
遺族厚生年金とは
遺族厚生年金とは、会社員や公務員など厚生年金保険の被保険者が死亡した場合、その方に生計を維持されていた家族に支給される遺族年金です。
以前は、公務員や私立学校の教職員は別の年金制度である共済年金に加入していましたが、2015年に制度が一本化されました。これにより、現在では公務員や私立学校教職員も含めて、ほとんどの被雇用者が厚生年金に加入しています。
遺族厚生年金の受給要件
遺族に遺族厚生年金が給付されるのは、以下のいずれかの受給要件を満たしている方が亡くなった場合です。
- 厚生年金保険の被保険者である間に死亡したとき
- 厚生年金の被保険者期間に初診日がある病気やけがが原因で初診日から5年以内に死亡したとき
- 1級・2級の障害厚生(共済)年金を受けとっている方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給権者であった方が死亡したとき
- 老齢厚生年金の受給資格を満たした方が死亡したとき
引用:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族厚生年金の対象者
遺族厚生年金の対象者は、亡くなった方によって生計を維持されていた家族の中から、次の優先順位に基づいて決定されます。
- 子のある配偶者
- 子(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)(※1)
- 子のない配偶者(※2)
- 父母(※3)
- 孫(18歳になった年度の3月31日までにある方、または20歳未満で障害年金の障害等級1級または2級の状態にある方。)
- 祖父母(※3)
※1 子のある妻または子のある55歳以上の夫が遺族厚生年金を受け取っている間は、子には遺族厚生年金は支給されません。
※2 子のない30歳未満の妻は、5年間のみ受給できます。また、子のない夫は、55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります(ただし、遺族基礎年金をあわせて受給できる場合に限り、55歳から60歳の間であっても遺族厚生年金を受給できます)。
※3 父母または祖父母は、55歳以上である方に限り受給できますが、受給開始は60歳からとなります。
引用:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族厚生年金の計算式と受給額
遺族厚生年金の受給額は、亡くなった方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3が基本となります。報酬比例部分は次の2つの計算式の合計です。
・平均標準報酬月額 × 7.125/1,000 × 2003年3月までの加入月数
・平均標準報酬額 × 5.481/1,000 × 2003年4月以降の加入月数
ただし、「遺族厚生年金の受給要件」の1、2、3に基づく遺族厚生年金の場合は、亡くなった方の厚生年金加入期間が300月(25年)未満でも、300月とみなして計算されます。
また、従前額保障という制度もあり、従前額が上記の計算方法で算出された金額より高い場合は、従前額が報酬比例部分の額となります。従前額保障について、詳しくは日本年金機構のサイトを確認してみてください。
さらに、65歳以上で老齢厚生年金もしくは退職共済年金の受給資格のある方が、配偶者が亡くなり遺族厚生年金を受け取る場合は、次のようになります。
「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の4分の3の額」と「死亡した方の老齢厚生年金の報酬比例部分の額の2分の1の額と自身の老齢厚生(退職共済)年金の額の2分の1の額を合算した額」を比較し、高い方の額が遺族厚生年金の額となります。
引用:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
遺族厚生年金の受給期間
遺族厚生年金の受給期間は、被保険者が死亡した翌月から始まりますが、いつまで支給されるかはそれぞれの条件により異なるので注意が必要です。
妻:子のある妻、または30歳以上であれば、生涯にわたって受給可能です。子のない30歳未満の妻は、5年間限定での受給となります。
子・孫:18歳になった年度の3月31日まで受給可能です。ただし、障害年金の1級または2級に該当する場合は20歳になるまで受給できます。
夫:子がいる場合、受給対象は夫ではなく子どもになります。子のない55歳以上の夫は、60歳から生涯にわたって受給可能です。ただし、遺族基礎年金と合わせて受給可能な場合は、55歳から60歳の間でも受給できます。
父母・祖父母:55歳以上であれば、60歳から生涯にわたって受給可能です。
中高齢寡婦加算とは
中高齢寡婦加算とは、特定の条件を満たす妻に対して、40歳から65歳の間、遺族厚生年金に一定額が上乗せされる制度です。加算額は年度ごとに異なり、2024年度の加算額は年間612,000円と定められています。
以下のいずれかに該当する場合、中高齢寡婦加算の対象です。
- 夫の死亡時に40歳以上65歳未満で、生計を同じくしている子がいない妻
- 遺族厚生年金と遺族基礎年金を受けていた子のある妻が、子が18歳になった年度末に到達した、または障害がある場合は20歳に到達したなどの理由により、遺族基礎年金の受給資格を失った場合
65歳に達すると、中高齢寡婦加算が終了し、老齢基礎年金に切り替わります。しかし、1956年4月1日以前に生まれた妻に限り、年金額の低下を防ぐ目的で「経過的寡婦加算」が適用される場合があります。次のいずれかに該当する妻は経済的寡婦加算の対象です。
- 65歳以降に遺族厚生年金の受給権を得た場合
- 中高齢寡婦加算を受けていた遺族厚生年金の受給権者である妻が65歳に到達した場合
引用:遺族厚生年金(受給要件・対象者・年金額)|日本年金機構
よくある質問
遺族年金に関するよくある質問を確認しておきましょう。
老齢年金を受給中の人は?
老齢年金を受給中の人が遺族になったときは、自身の老齢年金額より遺族年金額が高額な場合は、差額が遺族年金として支給されます。
一方、老齢年金受給者が亡くなった場合、配偶者は条件を満たせば、亡くなった方の老齢年金のおよそ4分の3に相当する遺族年金を受給可能です。
遺族年金には税金がかかる?
遺族年金には税金はかかりません。ただし、老齢年金や企業の年金制度などは条件によって税金がかかる場合があります。
離婚したらどうなる?
離婚した元配偶者が亡くなっても、基本的に遺族基礎年金は受け取れません。ただし、子は遺族基礎年金が支給される可能性があります。
また、遺族厚生年金については、養育費を受け取っているなどの生計維持関係があれば、受給できる場合があります。詳しくは年金事務所で確認してください。
まとめ
遺族年金は仕組みが複雑で理解が難しいかもしれませんが、私たちの生活を支える大切な制度です。万が一のときに備えるためにも、遺族年金について少しずつ理解を深めていくことをおすすめします。
執筆年月日:2024年9月
※内容は2024年9月時点の情報です。法律や制度は改正する場合があります。