相続税の基礎控除とは?控除額の計算方法や対象となる財産を解説
相続が発生した場合に相続税がどのくらいかかるのか、気になる方も多いかもしれません。しかし実は、すべての人が必ず相続税の申告や納付が必要になるかというと、そうでもないのです。
この記事では相続税申告や納付の有無に大きく関係する相続税の基礎控除について、算出方法や注意点などを、例を交えて解説します。
ほかにも課税対象になる財産の種類や、控除の種類、申告と納税が必要になった場合に役立つ情報も掲載していますので、ぜひ参考にしてください。
相続税の基礎控除とは
相続税の課税対象となるのは、被相続人から遺産相続された金銭に見積もれるすべての財産です。ただしこれは、遺産の総額に対するものではありません。
財産には相続税の非課税枠があり、課税対象にならないものがあります。また一部控除されるものや、条件に応じた控除の仕組みもあります。そのため、遺産総額からこの非課税財産の価額を引いた額が、実際の課税遺産総額となります。
さらに、相続税には「基礎控除」が設けられており、相続税は課税遺産総額から基礎控除額を引いた額に対して課税される仕組みとなっています。
つまり課税対象となるのは、遺産総額から非課税財産の価額と基礎控除額を引いた額で、これがいわゆる「課税遺産総額」となります。
・相続税の課税遺産総額 = 遺産総額 - 非課税財産の価額 - 基礎控除額
相続税の基礎控除はすべての人が利用できる制度です。後に詳しく説明しますが、基礎控除には計算式があり、家族構成や状況などによって額は変動します。
算出した基礎控除額が課税遺産総額を上回る場合には、相続税の申告や納税は不要です。まずは基礎控除がいくらになるのかを知ることが、相続税の手続きを進める上で大切なステップとなります。
相続税の対象となる財産の種類
先に述べたように、相続税の対象となるのは被相続人が亡くなった時に所有していた財産など、金銭に見積もれるすべての財産です。
具体的には以下の通りとなります。
- 被相続人が亡くなった時に所有していた財産
- みなし相続財産
- 相続人が被相続人から贈与により取得した財産
- 被相続人から相続開始前3年以内に取得した暦年課税適用財産
出典:相続税のあらまし|国税庁
被相続人が亡くなった時に所有していた財産
被相続人が亡くなった時に所有していた財産は、例外を除き基本的にはすべて課税の対象となります。なお被相続人の財産であれば、名義を問わず課税の対象です。日本国内のみでなく国外に所在している財産も含みます。
具体的には以下の通りです。
- 土地、建物
- 株式、公社債などの有価証券
- 預貯金、現金
みなし相続財産
生命保険金や退職金など被相続人の死亡により支払われる「みなし相続財産」は、相続などにより得たものとされるため課税の対象となります。ただし決められた計算式で算出される一定の金額までは、非課税です。
計算式は後述の「相続税の対象となる財産の中から一定額を控除できるもの」を参照してください。
相続人が被相続人から贈与により取得した財産
生前に被相続人から贈与を受け、贈与税申告時に「相続時精算課税」を適応していた場合には、課税の対象となります。
課税価格に加算されるのは贈与時の価額であり、相続開始時の価額ではありません。
相続人が被相続人から相続開始前3年以内に取得した財産
相続人が被相続人から、被相続人が亡くなる3年以内に贈与を受けた財産は、すべて課税の対象となります。なお年間110万円までの贈与に贈与税がかからない「暦年贈与制度」を利用していたとしても、対象となります。
この場合も課税価格に加算されるのは、贈与時の価額となります。
なお令和6年1月1日以降に贈与によって取得した財産は、その対象が相続開始前7年以内となります。
相続税の対象とならない財産の種類
一方で、相続税の対象にならない財産、また対象内ではあるものの一定額を控除できる財産もあります。控除できる費用についても説明します。
相続税の対象とならない財産
相続税の対象とならないのは、祭祀財産となります。具体的には以下の通りです。
- 仏壇、仏具
- 墓地、墓碑
- 神棚
相続税の対象となる財産の中から一定額を控除できるもの
相続税の課税対象となる財産の中から、死亡保険金や死亡退職金の一定額が控除できます。
控除額は、それぞれの財産に対し「法定相続人の数×500万円」までです。
法定相続人については後ほど説明します。
・死亡保険金や死亡退職金の控除限度額 = 法定相続人の数×500万円
相続財産の価額から控除できる費用
被相続人の借金や未払金などの被相続人の債務は、相続財産の価額から控除できます。また、葬儀業者やお寺などに支払った葬儀費用も控除できます。ただし墓地購入費や香典返し、法要費は含まれません。
相続税の申告と納税の時期
相続税の申告と納税の時期は、相続開始を知った日(被相続人が亡くなった日)の翌日から10ヶ月以内となります。土日・休日の場合は翌営業日です。
この期日までに申告書を提出し納税を行います。提出先や納税先は、被相続人が亡くなった際の住所を管轄する税務署です。
納期を過ぎると加算税や延滞税がかかるので注意しましょう。
相続税基礎控除額の計算式
基礎控除額は、民法に基づく相続人を意味する「法定相続人」の数によって変動します。基礎控除額が大きいほど、相続税額は少なくなります。
基礎控除額がどのくらいになるかは、以下の計算式で計算できます。
・相続税の基礎控除額 = 3,000万円 + (600万円×法定相続人の数)
課税遺産総額が基礎控除額より大きい場合には、相続税の申告と納税が必要です。なお課税遺産総額より基礎控除額の方が大きい場合には、通常申告は必要ありません。
・相続税の申告と納税が必要な場合: 基礎控除額 < 課税遺産総額
・相続税の申告と納税が不要な場合: 基礎控除額 > 課税遺産総額
法定相続人を数えるときの注意点
基礎控除額を計算する上で、法定相続人の数を把握することは必須事項です。法定相続人は家族構成によって自動的に決定され、遺言や財産相続の意思の有無などは影響しません。
まず、必ず法定相続人となるのは被相続人の配偶者です。
配偶者以外の法定相続人には順位が設けられています。順番は第1に被相続人の子(直系卑属)、第2に被相続人の父母(直系尊属)、第3に被相続人の兄弟姉妹となります。上位の人がいない場合にのみ、下位の人が相続人となります。
- 必ず法定相続人となる者:配偶者(婚姻届を出した者。内縁関係は含まない)
- 配偶者以外の第1順位:被相続人の子(直系卑属)
- 配偶者以外の第2順位:被相続人の父母(直系尊属)
- 配偶者以外の第3順位:被相続人の兄弟姉妹
ここでいくつか例を挙げます。
例1のケースでは、法定相続人は配偶者Aと子B・C・Dのため、合計人数は4人となります。
1.法定相続人が配偶者A、子B、子C、子D(合計4人)の場合
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×4)=5,400万円
例2のケースでは、法定相続人は配偶者Aと子C・D、そして故人である子Bの子(被相続人の孫)2人が追加され、合計人数は5人となります。このように法定相続人にあたる人物が故人である場合には、その人物の子が追加されます。
2.法定相続人が配偶者A、子C、子D、子Bの子D・E(合計5人)の場合
(※子Bが故人である場合、子Bの子である子D・Eが含まれる)
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×5)=6,000万円
例3では、法定相続人は本来自動的に配偶者Aと子B・C・Dとなりますが、子Cが相続放棄をしたため、計算上は配偶者Aと子B・Dの3人となるケースです。なお子Cが相続放棄をした場合、子Cの子(被相続人の孫)が法定相続人となるわけではありません。
3.法定相続人が配偶者A・子B・子D(合計3人)の場合
(※子Cが相続放棄をした場合、子Cの子F・Gは含まれない)
相続税の基礎控除額=3,000万円+(600万円×3)=4,800万円
法定相続人に計算する人数は、さまざまなケースが考えられます。自身の状況を踏まえて人数や控除額がどのようになるのか、検討してみましょう。
相続税の負担が軽減される場合
相続税の負担が軽減される控除制度や、非課税枠、特例などを紹介します。各種条件があったり申請が必要なものもあったりしますので、詳しく見ていきましょう。
贈与税の配偶者控除の活用
20年以上の婚姻期間がある夫婦は、通称「おしどり贈与」と呼ばれる贈与税の「配偶者控除」が利用できます。これは配偶者に対して、居住用の不動産やそれを取得する費用の贈与に対し、最高で2,000万円までが控除される制度です。
先に述べた暦年贈与制度の基礎控除とは別の枠で利用ができますので、ぜひ活用しましょう。
配偶者の税額軽減の活用
配偶者は税額軽減が活用できます。課税価格が1億6,000万円まで、もしくは配偶者の法定相続分相当額までは、相続税はかかりません。
このように配偶者にとっては負担が大きく軽減できるメリットがありますが、この制度を利用するには税務署へ相続申告書の提出が必須となります。
暦年課税の贈与の非課税枠活用
相続が開始された日から3年以内の贈与は、相続の対象となる財産へ加算され、相続財産とみなされてしまいます。これは暦年課税制度を利用していても適応です。
制度の性質を知り、非課税枠を活用するための方法を検討するのもよいでしょう。
未成年者控除
相続人が18歳未満の未成年である場合、相続税の一部が控除される「未成年者控除」が利用できます。未成年者控除の額は18歳から相続した時の年齢を引いた数値に、10万円をかけた数です。計算式は以下の通りとなります。
・未成年者控除額=(18歳-相続した時の年齢)×10万円
小規模宅地等の特例
土地や家などが相続財産に含まれる場合には、それぞれの評価額に応じた相続税が課税されます。
ただし被相続人の自宅として利用していた小規模な宅地などを、配偶者や被相続人と同居していた親族が相続した場合には「小規模宅地等の特例」が適応され、評価額を最大で80%まで減らすことができます。
障がい者控除
相続人が障がいをもっている場合、税負担が生活資金に影響しないよう相続税が減額される「障がい者控除」が利用できます。障がい者控除の額は、85歳から相続開始日の年齢を引いた数値に10万円をかけた数です。計算式は以下の通りです。
・障がい者控除額 = (障がい者控除額=(85歳-相続開始日の障がい者の年齢)×10万円(※特別障がい者は20万円)
まとめ
相続税の基礎控除について、計算式や注意点などを解説しました。基礎控除額の算定にはまず、法定相続人の数を把握することが必要です。
基礎控除以外にもさまざまな控除の種類がありますので、この記事を参考にしながらどのような制度が利用できるのか検討してみましょう。
相続税の申請と納税が必要になった場合には、期日内の手続きを忘れずにしてください。
執筆年月日:2024年9月
※内容は2024年9月時点の情報です。法律や制度は改正する場合があります。