葬儀保険が安いのにはカラクリがある?メリットやデメリットについても解説

近年、高齢化社会の進展とともに、葬儀費用への備えを考える人が増えています。特に、核家族化が進む現代では、突然の葬儀費用が残された家族に大きな経済的負担となるケースも少なくありません。このような状況のなか、葬儀費用に特化した保険商品として注目を集めているのが「葬儀保険」です。
葬儀保険は、一般的な生命保険と比べて保険料が安いといわれていますが、その背景には何かカラクリがあるのでしょうか。本記事では、葬儀保険の特徴やメリット・デメリットについて、詳しく解説します。
葬儀保険とは?
葬儀保険は、将来の葬儀費用や関連する整理費用に備えるための保険の総称です。葬儀費用は地域や規模によって大きく異なりますが、一般的にまとまった金額が必要となるため、多くの人が不安を感じています。
葬儀保険の大きな特徴は、加入のしやすさです。インターネット上で簡単に申し込みができ、医師による診断も不要なケースが多くなっています。
保険料は、月々数百円から手軽に始められる商品も存在し、一般的な生命保険と比べて割安です。これは、1年または2年ごとに契約を更新する掛け捨て型であるためです。また、保険金額が比較的少額に設定されていることも、保険料を抑えられる要因となっています。
保険金の受け取り方には、遺族への支払いの他、契約している葬儀会社への直接支払いが可能なプランもあります。また「葬儀保険」という名称ですが、実際の保険金の使途は葬儀に限定されていません。そのため、受取人が必要に応じて自由に活用できます。
葬儀費用への備えの必要性
必要となる葬儀費用は、多くの人が想像する以上に高額です。経済産業省の「特定サービス産業動態統計調査」によると、2023年の国内における葬儀費用の平均は、1件あたり約119万円にも上ります。
このような高額な費用は、突然のできごとに直面した遺族にとって、大きな経済的負担となりかねません。また、葬儀費用には斎場使用料や祭壇料、返礼品など、さまざまな費用が含まれています。これらの費用は、地域や葬儀の規模によって大きく変動するため、予期せぬ出費に備えておく必要があるのです。
このような背景から、生前に葬儀費用への備えを行う重要性が高まっています。具体的な備えの方法としては、計画的な貯蓄や葬儀保険、終身保険などが選択肢として挙げられます。自分の状況に合わせて、適切な備えを検討することが望ましいでしょう。
葬儀保険のメリット
葬儀保険には、一般的な生命保険にはないメリットが存在します。ここでは、葬儀保険のメリットを3つご紹介します。
保険料が一般的な保険商品と比べて安い傾向がある
葬儀保険は、一般的な保険商品と比較して保険料が安価に設定されている傾向にあります。月々の保険料が数千円程度で、家計への負担を抑えられる葬儀保険が多いのが特徴です。
保険料の支払い方には、年齢とともに上昇するタイプと、月々の保険料が変わらない定額タイプがあります。いずれのタイプも、一般的な生命保険と比べると割安な水準だといえるでしょう。このため、将来の葬儀費用に備えながらも、現在の生活費を圧迫したくないという人にとって、理想的な選択肢となっています。
ただし、定額タイプは将来の家計の見通しが立てやすい一方で、年齢が上がるにつれて保障額が減少します。このため、加入の際は慎重に検討しましょう。
高齢者でも加入できる可能性がある
葬儀保険の特徴のひとつに、加入できる年齢の幅広さが挙げられます。一般的な生命保険では、加入年齢の上限が75~80歳程度ですが、葬儀保険では89歳まで加入できる商品も存在します。
このため、高齢になってから葬儀費用への備えを検討し始めた人でも、保険による準備が可能です。また、多くの商品で90歳以上まで保障が継続されるため、長期的な安心を得られるでしょう。
告知不要で加入しやすい
多くの葬儀保険は、加入時の健康状態の告知が不要です。そのため、持病を持っている人や、過去に入院・手術の経験がある人でも、比較的容易に加入できます。
一般的な生命保険では、健康診断の結果や医師による診断書の提出が求められます。持病や既往歴によっては加入を断られたり、特別な条件が付されたりしかねません。
葬儀保険では、このような審査が不要で、多くの場合、健康状態に関係なく一律の条件で加入できる点が大きなメリットといえるでしょう。
葬儀保険のデメリット
葬儀保険はさまざまなメリットがある一方で、デメリットも存在します。ここでは、加入を検討する際に特に注意が必要な2つのデメリットについて解説します。
掛け捨て型のため解約すると保険料が戻ってこない
葬儀保険は、すべての商品が掛け捨て型です。このため、途中で解約しても、それまでに支払った保険料は一切戻ってきません。
一般的な終身保険などでは、解約の際に解約返戻金を受け取れますが、葬儀保険にはそのような仕組みはありません。このため、長期的な資産形成や貯蓄を考えている人にとっては、必ずしも最適な選択肢とはいえない可能性があります。
払込保険料の総額が保険金額を上回る可能性がある
葬儀保険は、主に高齢者を想定して設計された保険商品です。そのため、比較的若い年齢から加入して長期間継続すると、払込保険料の総額が将来受け取る保険金額を超えてしまう可能性があります。
このため、加入年齢が若い場合、葬儀費用への備えとして、貯蓄性のある終身保険など、別の選択肢も視野に入れることをおすすめします。
葬儀保険はどんな人におすすめ?
前述のとおり、葬儀保険は、すべての人に適しているわけではありません。しかし、次の人には有効な選択肢となります。
- 80歳を超えている人
- 持病持ちの人
- 短期間だけ保障を受けたい人
- 保険料を抑えたい人
詳しくみていきましょう。
80歳を超えている人
80歳を超えると、一般的な生命保険への新規加入は難しくなります。一方、葬儀保険では89歳まで加入できる商品も多く存在します。そのため、80歳を超えて葬儀費用に備えたい人には、葬儀保険がおすすめです。ただし、保障期間には上限があるため、加入前に保障終了年齢を必ず確認しましょう。
持病持ちの人
一般的な生命保険では、持病があると加入を断られたり、特別な条件が付されたりしかねません。しかし、葬儀保険は多くの場合、健康状態の告知が不要なため、持病持ちの人でも比較的容易に加入できます。健康上の理由で他の保険加入を断られた経験がある人にとって、有効な選択肢となるでしょう。
短期間だけ保障を受けたい人
葬儀保険は1年または2年ごとの更新型が主流で、必要な期間だけ加入できます。そのため、特定の期間だけ保障を受けたい人におすすめです。ただし、更新時に保険料が変動する可能性があることは念頭に置いておきましょう。
保険料を抑えたい人
月々の保険料を抑えながら、将来の葬儀費用に備えたい人にも葬儀保険は適しています。商品によって異なりますが、一般的な生命保険と比べると保険料が割安な傾向にあります。これは、掛け捨て型で、保険金額が比較的少額に設定されているためです。こうした特徴から、葬儀費用以外への備えが必要な場合は、別の保険も検討しましょう。
終身保険でも葬儀費用に備えることができる
葬儀費用への備えとして、終身保険も有効な選択肢のひとつです。ここでは、終身保険で葬儀費用に備える際のメリットとデメリットについて、詳しく解説します。
終身保険のメリット
終身保険は、一度加入すれば生涯にわたって保障が継続する保険商品です。葬儀保険とは異なり、更新手続きが不要で、保険料も契約時に設定された金額のまま変わりません。このため、将来の家計設計や資金計画を立てやすいことが大きな特徴です。
また、多くの終身保険には解約返戻金の制度が備わっています。これは、万が一の事情で解約する場合でも、それまでに支払った保険料の一部を回収できる仕組みです。
加えて、終身保険の利点として、死亡保険金が遺産分割の対象外となることが挙げられます。銀行口座に葬儀費用を貯めていた場合、金融機関が名義人の死亡を把握した時点でその口座は凍結されます。そして、遺産分割が確定するまでの間、遺族は原則として引き出しができません。
一方、終身保険の死亡保険金は受取人の個人財産として扱われるため、遺産分割協議の結果を待たずに受け取れます。そのため、葬儀費用の支払いなど、急を要する出費にも迅速に対応できるのです。
このように、終身保険は長期的な保障と資産形成の両面で活用できる商品といえるでしょう。
終身保険のデメリット
終身保険は貯蓄性のある保険商品のため、月々の保険料は葬儀保険と比べて割高になる傾向があります。また保険料は、加入時の年齢が高くなるほど大きくなります。特に、高齢になってからの加入では、家計を大きく圧迫しかねません。
また、終身保険は契約時に保険金額が決定し、その後は変更できません。そのため、長期的なインフレによる影響が懸念されます。
たとえば、契約時には十分と考えられた保険金額でも、10年、20年と時間が経過すると、物価水準の上昇により保険金の実質的な価値が低下する可能性があります。このため、将来の葬儀費用を十分にカバーできなくなるリスクも考慮しましょう。
加入を検討する際は、これらのデメリットを踏まえたうえで、自身の経済状況や将来設計に合わせて判断することが重要です。
まとめ
葬儀保険は、高齢者や持病のある人、また保険料を抑えて葬儀費用に備えたい人にとって、有効な選択肢となります。特に、一般的な生命保険への加入が難しい人でも比較的容易に加入できる点は、大きな魅力といえるでしょう。
一方で、掛け捨て型であることや、長期加入による保険料の総額が保険金額を上回る可能性があることなど、注意すべき点もあります。葬儀費用への備えとしては、葬儀保険の他にも終身保険や計画的な貯蓄など、さまざまな方法があります。年齢や健康状態、経済状況などを総合的に考慮し、適した方法を選択することが大切です。
執筆年月日:2025年1月