相続手続きの期限はいつ?手続き一覧や期限を過ぎた場合のデメリットについても解説

相続手続きはたくさんやることがありますが、何をいつまでに終わらせたらよいかわからないという方は多いのではないでしょうか。手続きが面倒だからといって後回しにすると、期限が過ぎ手続きできなくなる可能性があります。財産面で損をしないためにも、相続手続きは期限までに早い段階で行いましょう。
この記事では、期限のある相続手続きの内容や期限を過ぎた場合のデメリットなどについて解説します。
相続手続きで期限が決まっているもの
期限が決まっている相続手続きは、7つあります。3ヶ月以内から3年以内まで、期限は手続きによってさまざまです。どのような手続きがあるか、ひとつずつ見ていきましょう。
相続放棄:3ヶ月以内
相続放棄とは、相続人が被相続人の財産や債務などすべての遺産を相続する権利を放棄することをいいます。
相続人は、財産の相続について、単純承認・相続放棄・限定承認のなかから選択しなければなりません。相続放棄をした場合は、被相続人の財産も債務も一切相続する必要がなくなります。債務が多く引き継ぎを拒否したいときに、相続を全部放棄できる手続きです。
相続放棄の申出は、被相続人が亡くなり、自分が相続人であることがわかった日から3ヶ月以内に、家庭裁判所へ申し立てなければなりません。3ヶ月以内に相続放棄するか決めるのが難しい場合は、家庭裁判所へ申し立てることで期限の延長が可能です。
被相続人に多額の債務があった場合、3ヶ月を超えてしまうと単純承認したとみなされ、相続放棄できなくなります。被相続人に負債がある場合は、相続人が代わりに支払わなければなりません。期限を過ぎるとデメリットが多い手続きなため、希望する場合は3ヶ月以内に必ず行いましょう。
限定承認:3ヶ月以内
限定承認は、相続人が被相続人から相続した財産の範囲内で債務を相続する方法です。債務のほうが多い場合は、被相続人の財産を限度として債務を受け継ぐため、債務が0になりマイナス分を引き継がなくて済みます。
たとえば、財産1,500万円で負債1,000万円の場合、1,500万円から1,000万円を引いた500万円が相続できる財産です。財産1,500万円で負債2,000万円と負債が多い場合、負債は財産の金額を限度とするため1,500万円とみなされ、相続財産は0円になります。
相続放棄と同じく、限定承認も被相続人が亡くなり、自分が相続人であることがわかった日から3ヶ月以内に、家庭裁判所に申し立てを行う必要があります。相続人が単独で行える相続放棄とは違い、限定承認は相続人全員で行わなければなりません。財産目録や清算手続きが複雑な点にも注意してください。
準確定申告:4ヶ月以内
準確定申告とは、被相続人が亡くなった年の所得税の確定申告を、相続人が代わりに行うことを言います。被相続人に事業所得や不動産所得など、確定申告が必要な所得があった場合、相続人が準確定申告を行わなければなりません。準確定申告が必要な場合は、主に以下の通りです。
- 被相続人が自営業者
- 2か所以上の給与所得あり
- 給与額が2,000万円以上
- 年金受給が400万以上
- 確定申告でもらえる還付金あり
- 不動産所得あり
- 給与所得以外の20万円以上の所得あり
- 年金収入が400万円以下で、年金以外の収入が20万以上
- 生命保険の満期金や解約返戻金の受け取りあり
準確定申告は、相続人全員の連名で、相続の開始を知った翌日から4ヶ月以内に行ってください。被相続人に確定申告が必要な所得がなければ、手続きは不要です。
相続税の申告・納付:10ヶ月以内
相続した財産が一定額を超える場合は、相続人であることがわかった日から10ヶ月以内に相続税の申告・納付をしましょう。相続税の対象となる財産は、被相続人が所有していた預金・不動産などです。
ほかに、死亡退職金や死亡保険金などのみなし相続財産や、被相続人が相続開始前3年以内に取得した財産なども対象です。生前に相続時精算課税制度を利用して被相続人から贈与を受けていた場合も、相続税の対象に含まれます。贈与時の価格を相続税の課税価格に加算してください。
相続税の対象金額には、以下の基礎控除が設定されています。
3,000万円+(600万円×法定相続人の人数)
課税対象額から基礎控除を引いた金額が、相続税の総額です。相続税は、相続人がそれぞれ受け取った財産に対し個々に算出します。そのため、相続税の申告期限である10ヶ月以内には遺産分割協議を終えて、それぞれの相続人が受け取る遺産額を決める必要がある点に注意してください。遺言書がある場合は、遺産分割協議は不要です。
遺留分侵害額請求:1年以内
遺留分とは、法律で定められた相続人が最低限相続できる権利、もしくは割合のことです。遺留分を有する相続人は、遺留分権利者といい、配偶者、子どもなどの直系卑属、親や祖父母などの直系尊属です。
たとえば、遺言書に法定相続分を大きく下回る相続内容の記載があった場合、家庭裁判所に申し立てれば遺留分を請求できます。遺留分侵害額請求は、被相続人が遺留分権利者以外に財産を贈与または遺贈して財産を受け取れなかった場合に、財産を受け取った人に対して侵害を受けた財産分の支払いを請求できる制度です。
対象となる遺留分の割合は、相続人に配偶者・直系卑属のどちらか一方がいる場合は相続財産の2分の1、相続人が直系尊属のみの場合は3分の1です。相続人が兄弟姉妹のみの場合は、遺留分は認められておらず請求できません。
遺留分侵害があった場合は、贈与または遺贈がわかった日から1年以内に遺留分侵害額請求をすれば、遺留分の取り返しが可能です。
死亡保険金の請求:3年以内
被相続人が死亡保障のある生命保険に入っていた場合、指定された保険金受取人は死亡保険金を請求できます。死亡保険金の請求期限は、多くの保険会社で被保険者が亡くなった日から3年以内です。
これは、保険法で保険金請求の事項は支払事由(被保険者の死亡)から3年と決められているためです。ただし、状況によっては期限を過ぎていても請求できる場合もあるため、保険会社に問い合せてみてください。
相続登記:3年以内
不動産を相続した場合、相続登記の手続きをする必要があります。不動産相続後の相続登記は、2024年4月から義務化されました。2024年4月より前に相続が開始している場合も、義務化の対象です。2027年3月末までに登記が必要なため、注意してください。
相続登記は不動産の相続を知った、もしくは遺産分割が成立した日の翌日から3年以内に行う必要があります。猶予期間である3年以内に、相続登記しましょう。
相続手続きを行わないことによるデメリット
相続手続きを期限までに行わない場合、考えられるデメリットは6つあります。どのようなデメリットがあるか、順番に見ていきましょう。
税金の軽減制度などを利用できなくなる
相続の開始を知った日の翌日から10ヶ月以内に相続税の申告・納付をしなければ、税金の軽減制度が利用できません。相続税は、できる限り安く抑えたいものです。安くできる軽減制度を最大限利用するためには、期限内に申告・納付を行いましょう。
延滞税がかかる
期限までに相続税を納付できない場合、納付が完了するまで延滞税がかかります。延滞税の利率は、原則として納付期限の翌日から2ヶ月までは年7.3%、2ヶ月以降は14.6%です。
税務署から督促状が届いても納付せず放置していると、財産を差し押さえられる可能性もあります。余計なお金を払わなくて済むよう、相続税も期限までに申告・納付してください。
新たな相続が発生するリスクがある
早めに相続手続きをしないと、相続人に何かあった場合に新たな相続が発生し、手続きが増えるリスクがあります。たとえば相続人が認知症になり代理人を立てる、亡くなって相続人が増えるなど、時間がたつごとに状況は変化し、手続きが増えてより複雑になります。
新たな相続が発生して手続きが長引かないようにするためにも、早めに手続きをしましょう。
借金を相続してしまうリスクがある
被相続人が多大な借金を抱えていた場合、手続きをしないと債務を相続しなければなりません。本来抱えなくてもよい債務を相続してしまうリスクがあり、回避するためには手続きが必要です。期限内に行うようにしましょう。
預金の権利が失われるリスクがある
預金を手続きせずに放置すると、権利が失われるリスクがあります。預金通帳は、名義変更しない、もしくは放置して10年経過すると休眠預金扱いになり、預金保険期間に移管される可能性があります。
10年経過後も払い戻してくれる金融機関も存在しますが、金融機関によって払い戻してくれるとは限りません。預金の権利を相続したいなら、早めに名義変更手続きを行いましょう。
不動産・株式が売却できない
不動産・株式は、相続登記や株式の名義変更をしないと売却できません。相続しても所有権を主張できず、権利を完全に失くす恐れもあります。相続した財産を失わないよう、不動産・株式についてもしっかり手続きを行ってください。
相続手続きを期限内に終わらせるためのポイント
相続手続きを期限内に終わらせるためには、遺言書の有無で流れが異なります。ここでは、遺言書がない場合とある場合、それぞれのポイントを紹介します。
遺言書がない場合
遺言書がない場合、以下のような流れで進めます。
- 被相続人の財産を特定し財産目録を作る。
- 相続人を確定する。
- 遺産分割協議を行う。
- 手続きをすすめる。
遠方の相続人がいるのなら、相続人全員の合意を得るのは容易ではありません。自分で対応するのが難しいと感じたら、銀行や専門家へ遺産整理を依頼するのもひとつの手段です。他者へ依頼すれば、相続手続きの窓口を一本化できる上、負担を軽くできます。
遺言書がある場合
遺言書がある場合は、銀行や専門家などに相談しましょう。公正証書遺言があり、遺言執行者が指定されている場合は、銀行が遺言執行補助をしてくれるため、遺言執行者の負担を減らせます。
遺言書が自筆証書遺言なら、遺産整理でサポートしてくれる場合もあります。相続手続きが難しいと感じたら、遺言書がある場合でも銀行や専門家に相談するのが得策です。
まとめ
相続手続きの期限は、手続きする内容によって異なります。期限内に行うのはもちろんですが、後々困らないためには早めに対応することが重要です。
多岐に渡る相続手続きを自分で行うには、かなりの負担がかかります。抱え込まずに銀行や専門家に相談して、確実に手続きを行いましょう。
執筆年月日:2025年1月
※内容は2025年1月時点の情報です。法律や制度は改正する場合があります。